ベトナム映画『走れロム』特別先行上映会、ベトナム通の岩井志麻子さん赤裸々トーク!

本国ベトナムで驚異の大ヒットを記録し、ベトナムの闇を照らし出した衝撃作『走れロム(原題:Ròm)』。本国以外では世界初の劇場公開となる7月9日の日本公開を記念して、6月28日に特別先行上映会がヒューマントラストシネマ渋谷で実施されました。

イベントでは、ベトナムの愛人との日々を綴った自伝的官能小説「チャイ・コイ」などベトナムを舞台にした著書でも知られる作家・岩井志麻子(いわい・しまこ)さんと、在日ベトナム人問題を取材し続け、現地事情にも詳しいジャーナリスト・出井康博(いでい・やすひろ)さんをトークゲストに迎え、観光客の知らないディープなベトナム社会のタブーに切り込みました。

『走れロム』先行上映会スチール1

イベントレポート

『走れロム』の舞台であるベトナムについて聞かれた岩井さんは、「大好きなベトナムを語れること、嬉しいと思っております」と切り出し、「ベトナムには、書き下ろしのための取材で2001年に初めて行ったのですが、それまで縁もゆかりもなかったんです。でも行ってみたらレストランに男前がいた(笑)。その愛人と実は20年くらい続いているんですよ。愛人にも家庭があり、今では彼の妻や家族とも仲良くなっちゃって。『走れロム』主人公のロム(Ròm)が、私の愛人の息子にそっくり!すばしっこくて、儚げで、でもどこか逞しい感じも」と赤裸々なエピソードを交えてベトナムとの縁を語りました。

劇中で描かれる“闇くじ”について、出井さんからは、「ベトナムでは、日本よりもずっと宝くじが盛んなんです。地域や省ごとに当選番号の発表が毎日夕方にあり、6桁の番号を当てるギャンブルです。でも、こうした政府公認の正規くじを購入する人は多くなく、正規くじなど足元に及ばないほど、“闇くじ”が人気なんです。“闇くじ”でも、正規くじの当選番号が採用されていて、当てるのは下2桁だけなので、オッズは70倍と、正規くじよりずっと高い。しかも、2桁の数字であれば100分の1の確率で当たる。『100分の1』なら当てられるかもと安易に考え、多くの人が闇くじにハマっていくんです」と庶民のあいだで蔓延っている“闇くじ”の背景を解説しました。

また、チャン・タン・フイ(Trần Thanh Huy)監督について、「ベトナムには日本のような表現の自由はなく、政府にとって不都合な実態は、たとえフィクションの映画であっても描くことは許されない。当局の検閲で修正を余儀なくされながら、まさに命がけで“闇くじ”をテーマにベトナム社会の暗部を描き切ったフイ監督の勇気に拍手を送りたい」とフイ監督の功績をたたえました。

岩井さんは、「ベトナムは呑気な南国かと思ったら、やはり社会主義国か、と何でも袖の下という感じで、厳しいのか緩いのかわからない国です」と話し、「ホーチミンは少し見ない間にものすごく発展し、都会の街並みになりました。昔はストリートチルドレンも多く、私も映画に出てくるような闇くじを売りに来る子供に遭遇したことがあります。まぁでも、私の愛人のベトナム人は、私という日本の大当たりくじを引き当てた!ってことですよね(笑)」と会場を笑いに包みました。

最後に映画の見どころについて、「ベトナムのリアルな、剥き出しの街並みが感じられる映画。社会問題も描かれていますが、この映画のエネルギッシュな凄さを感じて、ああ、ベトナムに行きたい!楽しそう!と思ったり、私のように下世話でミーハーな目で見ることは、そんなに悪いことではないとも思います」と語り、「私も、コロナが明けたらベトナムに行きたい!ですね。愛人に会いたいです!」と岩井ワールド全開の密度の濃いトークイベントとなりました。

『走れロム』先行上映会スチール2

『走れロム』

映画『走れロム』は、賑わうサイゴン(ホーチミン市)の裏町を舞台に、孤児の少年ロムが夢を叶えるため、巨額の当選金が手に入る“闇くじ”に挑む姿を疾走感溢れるスタイリッシュな映像とリアリズムを追求したタッチで描く問題作。

監督は、本作が長編デビュー作にして第24回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門最優秀作品賞受賞ほか多くの映画祭で高い評価を受け、熱い視線が注がれる期待の新鋭チャン・タン・フイ。『青いパパイヤの香り』『ノルウェイの森』で知られる名匠トラン・アン・ユン(Trần Anh Hùng)がプロデューサーとして参加しています。

世界で輝かしいデビューを飾った本作ですが、社会主義国家のベトナムにおいて顕在化させたくない社会問題を描いたことで、当局の検閲が入り修正を余儀なくされました。そうした苦境を経て迎えた2020年9月の本国ベトナムでの公開は、ロングランヒット中だったクリストファー・ノーラン監督の超大作『TENET テネット』を興行成績で上回る驚くべきヒットを記録。ミニシアター文化のないベトナムで、インディペンデント映画が商業的にも成功をおさめる一大センセーションを巻き起こしました。

『走れロム』サブ
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ストーリー

活気に満ちたサイゴンの路地裏にある古い集合住宅。住民たちは投資家を装う詐欺師の債権者から多額の借金を背負い、アパートを維持するため大金が当たる違法宝くじに熱中している。14歳の孤児ロムは、そこで宝くじの当せん番号の予想屋として生計を立てていた。地上げ屋から立ち退きを迫られている裏町の住民たちを救うため、生き別れになった両親を捜すため、ロムは危険な違法宝くじで一攫千金の賭けに出る――!

予告編

『走れロム』

監督:チャン・タン・フイ
出演:チャン・アン・コア、アン・トゥー・ウィルソン
プロデューサー:トラン・アン・ユン
2019年/ベトナム/ベトナム語/カラー/DCP/2.39:1/79分/日本語字幕:秋葉亜子
原題:RÒM/提供:キングレコード/配給・宣伝:マジックアワー
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公式サイト:http://www.rom-movie.jp/

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